Q.31 メキシコでトウモロコシの原種に組換えとの交雑が起こったと報告されましたが本当ですか。
質問分類 10.遺伝子組換え作物と近縁種との交雑について
質問 Q.31 メキシコでトウモロコシの原種に組換えとの交雑が起こったと報告されましたが本当ですか。
回答  2001年、ネイチャー誌に、メキシコのオアハカ州(トウモロコシの原産地)の2地点で得たトウモロコシ在来種サンプルから遺伝子組換えトウモロコシに特有のDNA配列(カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター配列を含むDNA断片)が検出されたという論文が発表されました1)。このことは、トウモロコシ原種と組換えトウモロコシの間に交雑が起こったことを示しています。2002年1月にメキシコシティーで開かれた会議では、メキシコのオアハカ州の20地点およびプエブラ州の2地点から採取したサンプルの約12%から組換え配列が検出されたと報告されています。
 しかし、この問題については、その後追試をしても交雑を確認できず、調査方法が不適切だったのではないかと指摘され、ネイチャーに掲載された論文も取り下げられました2)。したがって、トウモロコシの原種との交配は未確認の仮説のままになっています。

 トウモロコシは遺伝子型の異なる配偶子間の交配(外交配といいます)を行う種類の植物で、原種のそばに組換えトウモロコシが栽培されていれば、容易に交雑が起こります。また、トウモロコシの花粉は風に乗って遠くまで運ばれるため、米国農務省は遺伝子組換えトウモロコシの野外試験における隔離距離を660フィート(約200m)以上、医薬品や工業材料を産生するトウモロコシの場合はその8倍の1マイル(1.6 km)以上とするように指示しています。

 メキシコは毎年500万トンのトウモロコシを米国から輸入しています。したがって、メキシコ国内には組換えトウモロコシが広く流通し、消費されていると考えられます。メキシコは1998年から組換えトウモロコシの栽培を禁止していますが、もしこの種子を買った農家がこれを違法に栽培すれば、隔離距離以内に栽培されていた原種との交雑が起こる可能性があります。しかし、現在のところ、メキシコで、原種と遺伝子組換えトウモロコシの間に交雑が起こったのかどうかについては不明です。なお、メキシコでトウモロコシ在来種の保存を行っている国際トウモロコシ麦品種改良センターによると、オアハカ州で採取した種子や同センターが管理する種子銀行に保存されている種子については、2002年10月の時点で組換え遺伝子の存在は確認されていないということです。

【参考文献】
1)NATURE|VOL414|29 NOVEMBER 2001
2)NATURE|VOL414|29 NOVEMBER 2001
3)佐野浩監修:遺伝子組換え植物の光と影?.学会出版センター、2003
4)68 FR 11337-11340, 2003. 3. 10.:Field Testing of Plants Engineered to Produce Pharmaceutical and Industrial Compounds.